構造用鋼とは?特徴や種類の違い、用途などを詳しく解説

建築や工場、土木などさまざまなシーンで活用されている「構造用鋼」。
そんな構造用鋼は、素材や強度の異なる種類が豊富にあります。
種類が多い分、用途に合わせて鋼材を選ぶことができますが、一方、どの鋼材がどの分野に最適なのか、分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、構造用鋼について詳しくご紹介します。
特徴をはじめ、種類や用途、加工する際の注意点などを解説するほか、構造用鋼の中でも代表的な“一般構造用圧延鋼材”や“機械構造用圧延鋼材”についても深堀りします。
興味がある方、基本知識を得たい方は、ぜひ参考になさってください。
構造用鋼とは?
構造用鋼とは、建築や土木、機械の部品などに使われる鋼材の総称です。そんな構造用鋼の形状は、多種多様です。
構造用鋼の主な形状
・形鋼:T形や山形などの断面形状の鋼材
・棒鋼:丸形や角形などの棒状の鋼材
・平鋼:厚さ3ミリ以上の鋼材
・鋼板:厚さ3ミリ以上、幅1250ミリ以上の板状の鋼材
このように、豊富な種類があることで、さまざまなシーンに活用されています。
構造用鋼の特徴とは?
主な特徴は、とにかく種類が豊富なことです。なぜ種類が多いのかというと、使用用途に合わせて最適な鋼材を選べるよう、強度や特性の違うものを展開しているからです。
種類によって、含有する炭素やクロム、リンなど素材の割合が異なることで、強度や靱性などの違いを生み出しています。
成分は、種類ごとにJIS規格に合わせて定められているのも特徴の一つです。
構造用鋼の種類は?
既に種類が多いことはお伝えしましたが、具体的にどんな種類があるのでしょうか。大まかに分けると、以下の通りです。
・一般構造用圧延鋼材
・機械構造用圧延鋼材
・機械構造用合金鋼
・焼入性を保証した構造用鋼
・冷間圧造用鋼
このように、たくさんの種類がありますが、似たような名前で間違えやすいのも事実。
それぞれに違いがありますので、しっかり把握しておくことが大切でしょう。
それでは、種類ごとの違いを見てみましょう。
こちらのページでは、銅合金の特性や用途を種類をご紹介しています。合わせて是非ご覧ください。
一般構造用圧延鋼材(SS材)の特徴
一般構造用圧延鋼材は、JIS規格(日本工業規格)に指定されている鋼材で、化学物質の規定がほとんど無いといった特徴があります。化学物質の規定はほとんど無いものの、有害物資であるリンと硫黄に関しては含有量に対して上限が規定されています。
リンと硫黄の含有量の上限は全体の0.05%以内で、炭素量は0.15〜0.2%この2点だけでそのほかに明確な基準は存在していません。
しかし、一般構造用圧延鋼材はJIS規格の中でもとくに不良品が少なく、歩留まり(加工した場合の使用原材料に対しての製品の出来高比率)がよいとされています。
そのため、常に合理性と利便性の追求が必要とされている建築現場や土木作業現場などで、最も使用頻度が高い材料です。
SSとは「Steel(鋼)」と「Structure(構造)」の頭文字です。SSの後の「400」は引張りの強さの最小保証値を指しており、SS400の場合は400〜500MPaの範囲であれば引張りの強度が保証されています。
SS400も併せてJIS規格のSS材は全部で4種類あります。
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SS330
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SS400
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SS490
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SS540
とくに、SS400はとくに汎用性が高く、価格も安価なので実務では基本的にSS400を使用しています。
SS330は引張りの強さが330〜430MPa、常温域から中温域(350度程度)で使われます。
SS490は引張りの強さが490〜610MPa、SS330同様に常温域から中温域で使われますが、SS400・330よりも溶接性が低いです。溶接が必要な場面での使用は避けましょう。
SS540は引張りの強さが540MPa以上、SS330など同様に常温域から中温域で使われます。こちらも溶接性が低いので、溶接が必要な場面での使用は避けてください。
機械構造用圧延鋼材(SC材)の特徴
機械構造用圧延鋼材はS-C材と表記される場合が多く、意味は「Steel(鋼)」と「C(炭素)」です。
「-(ハイフン)」の場所には、炭素の含有量(×100)の数字が入ります。最も多く使われているのが、機械の部品などに使用されるS45Cです。
S-C材(機械構造用圧延鋼材)の炭素含有量が0.45%といった意味です。S-C材にはS45C以外にも、炭素の含有量に応じて6種類あります。
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S15C
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S25C
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S30C
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S35C
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S50C
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S55C
炭素含有量が高いほど強度は上がりますが、同時に耐衝撃性(靭性)が下がります。SS400と並び価格帯も低いため、実務でよく熱処理が必要であればS45C、熱処理が不要であればSS400を使用するといったように得意分野ごとで使い分けられます。
S45Cの場合、流通しているのはほぼ丸鋼のため、角鋼はほとんど流通していません。仮に流通していても数が多く無いため、かなりコストが上がる可能性があります。
角鋼や平鋼を使用したい場合はS45Cではなく、S50Cを選ぶといいでしょう。また、機械構造用圧延鋼材の特徴は主に4つです。
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熱処理ができる
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錆びやすい
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入手しやすい
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切削加工がしやすい
それではそれぞれ、くわしく見ていきましょう。
熱処理ができる
SS400との使い分けの際に熱処理が必要であればS45Cを使うと記載しましたが、S-C材は熱処理ができるのが特徴です。鋼材に対して熱処理を行うと、硬度を上げる効果が期待できます。
熱処理では焼入れや焼き戻しが行われ、熱処理の仕方でも硬度の上がり方が変わるので目的に合わせた焼入れ方法を選ぶといいでしょう。
ただし、熱処理を行うためにはある一定(3%)以上の炭素含有量が必要なため、炭素含有量が0.15〜0.2%と低いSS材では熱処理を行えません。同じS-C材の場合でも、S30Cよりも炭素含有量の少ないものは熱処理は行えないので注意が必要です。
熱処理を行ったS-C材の降伏応力(金属に一定以上の力を加えると現れる現象)は、490MPa以上です。
錆びやす
機械構造用圧延鋼材は他の金属同様、錆びやすいといった特徴があります。見た目の綺麗さを保つため錆びさせたくない場合は、表面に油を塗ったり塗装を行ったり何かしらの防錆処理が必須です。
入手しやすい
機械構造用圧延鋼材は機械部品などに多く使用されていますが、その理由の一つに入手のしやすさがあります。コストも他の金属と比べて低いためよく使われます。
ただし、SS400と比べると少し金額が上がるため基本はSS400を使い、必要があり次第S45Cに切り替える場合が多いです。機械構造用圧延鋼材はかなり一般的な金属のため、入手するのに苦労する可能性はほぼ無いでしょう。
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鋼板
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丸鋼
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角鋼
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六角鋼
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綿材
上記のようにさまざまな形で流通しているため、使用目的に応じて欲しい形を入手しましょう。
たまに間違われますが、パイプの形をしたものは別企画に分類されます。S-C材ではなくJISG3445(機械構造用炭素銅鋼管)なので注意してください。
切削加工がしやすい
機械構造用圧延鋼材は熱処理を行うと強度が増すため、切削加工などの加工が少し難しいですが熱処理前であれば切削加工などが簡単にできます。歯車などの部品を作る際には、切削加工を施してから熱処理を行い、最後に僅かな寸法のズレを調整するために研削を行います。
そのほかの種類の特徴をご紹介
それでは今まで紹介した一般構造用圧延鋼材や機械構造用圧延鋼材と比べると使用頻度などは少し低いものの、実務には欠かせない2種類の鋼材があります。
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溶接構造用圧延鋼材(SM材)
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建築構造用圧延鋼材(SN材)
それぞれに一般構造用圧延鋼材や、機械構造用圧延鋼材にはない特徴や役割があります。その時最も最適な鋼材を選べるようにぜひくわしく知っておきましょう。
溶接構造用圧延鋼材(SM材)とは
溶接構造用圧延鋼材はその名前からも分かる通り、溶接性の高い鋼材です。SM材のSは「Steel(鋼)」で、Mは「Marine(船舶)」です。
昔は船舶の溶接で主に使用されていた名残で、船舶の頭文字が採用されています。現在は、船舶だけではなく以下のような幅広い分野で使われています。
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産業機械
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パイプライン
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発電プラント
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社会インフラ関係
上記のように、私達の生活に欠かせないものです。
SM材とSS材は添加成分がかなり似ています。
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SS材はリドム鋼でSM材はキルド鋼からできている
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SS材よりもリンと硫黄の比率が少ない
ただし、上記の2点が違う部分であり、これらの違いが溶接には向かないSS材と溶接に適したSM材の特徴の違いにも現れています。
キルド鋼とは溶鋼に含まれた酸素を抜く脱酸作業を行い、溶鋼に含まれる気泡を除去します。気泡を除去すると低温でも十分な強度を保てるため、船舶などの使用に適した素材です。
また、リンと硫黄は低温脆性(低温になると脆くなる性質)の原因となるため、SS材よりもリンと硫黄の含有量が少ないSM材が溶接に適しています。SM材にはそれぞれA~Cの種類があり、末端にいずれかのアルファベットが記載されています。
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A種:耐候性が高く熱・紫外線・雨水の影響を受けにくいため屋外などに使用
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B・C種:衝撃試験を行い低温状態でも強く脆性破壊が起きにくい
同じSM材ですが特性があるため、使用場所に応じて使い分けましょう。
建築構造用圧延鋼材(SN材)とは
建築構造用圧延鋼材はその名の通り、建築物の内外に使用される鋼材でSN材と表記されます。それだけではなく、この地震大国である日本で私達の安全性を守る大変重要な鋼材です。
以前は、溶接構造用圧延鋼板が建設鉄骨の鋼材として使われていましたが、現在は建築構造用圧延鋼材(SN材)が多く採用されるようになっています。
SN材は、SS材やSM材よりも過大な引張負荷が原因の溶接部脆性破壊・開裂などが起こりにくく、高い耐震性を持っている特徴があります。
SN材が作られる理由となったのは、1978年の宮崎県沖地震で当時のマグニチュードは7.4。当時の地震ではブロック塀が倒れたり、建物が崩れたりしてかなりの被害が出たそうです。その結果、1981年に新耐震設計基準が施行されました。
今までは、震度5までの地震に耐えられる構造であれば法律をクリアしていましたが、新しい基準では震度6〜7の地震に耐えられる素材が求められました。その結果、1994年頃大きな地震でも耐えられる建築鋼材特有の溶接性を大切にしたSN材がJIS規格化、現在も多く使われる鋼材の誕生です。
耐震性を重視されているため、JIS規定も厳しくなっています。
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耐力・降伏比の上限
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シャルピー吸収エネルギー値
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板厚方向の絞り値
これらの項目は、すべて耐震性を保証するに当たり重要な値です。流通が始まった頃はかなり高コストとされていましたが、流通量が増えてきた最近ではかなりコストも下がってきました。
SN材は建物全体の鉄骨に使用するのではなく、すべてをSN材にしてしまうと逆に耐震性が弱くなってしまうため大梁や主柱など建築物の重要な部分に使用されています。
構造用鋼の用途は?
構造用鋼の用途は、分野問わず幅広く使われていますが、種類によって使用用途は異なります。
種類別の用途は、以下の通りです。
・建築
・機械設備
・車両
このほかに、私たちの身近なもので言うと、非常用らせん階段や滑り台などにも使用されています。
機械構造用圧延鋼材の場合の主な用途
・車両の部品
・家庭用機器の部品
・工具など
このように、普段気にしていないだけで、実は至るところに構造用鋼が使用されているのです。
ものづくり業界において、構造用鋼はなくてはならない存在となっています。
構造用鋼を加工する際の注意点
構造用鋼は、成形加工や除去加工、接合加工など、さまざまな加工をすることができます。
使い勝手の良い構造用鋼ですが、加工する際は注意が必要です。
注意点①腐食対策を忘れずに行うこと
構造用鋼を含め、鉄素材はどうしても錆びてしまいます。
水分はもちろん、空気中の酸素によっても腐食してしまうのです。
加工する際は、腐食対策を行うようにしましょう。
一般的に、黒染めやクロムメッキ加工などの表面処理が行われています。
このほかにも、さまざまな腐食対策がありますので、施行しやすいものを選ぶといいでしょう。
注意点②溶接する際は予熱と後熱を心がけること
溶接する際、常温での作業は避けるようにしましょう。
なぜなら、溶接金属の部分の急冷や硬化の影響で割れてしまう可能性があるからです。
特に、炭素の多い“機械構造用圧延鋼材(SC材)”は注意が必要です。
溶接加工をする場合は、割れを防ぐため、溶接前の“予熱”と溶接後の“後熱”を心がけましょう。
注意点③種類による特性を理解した上で加工すること
構造用鋼は種類が多い分、特性や強度などが異なるとお伝えしました。
溶接に向いている"SS材"や熱処理が可能な“SC材”など、それぞれの特徴を理解した上で加工するようにしましょう。
このように、構造用鋼を加工する際は、上記の注意点を忘れないようにしましょう。
用途に合わせた鋼材を選び、正しい加工方法を行うことがとても大切です。
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いかがでしたでしょうか?
この記事を読んでいただくことで、構造用鋼についてご理解いただけたと思います。
構造用鋼と一括りに言っても、種類によって強度や特性は違うものです。
ジェムス・エンヂニアリングでは40年以上の鉄鋼貿易の経験を活かして、汎用鋼から超合金、非鉄まで幅広い分野で時代のニーズに合わせてグローバルネットワークを構築してまいりました。
特に特殊鋼の分野では、日本メーカーのみならず海海外のメーカーとのネットワークも有しており、豊富な商品ラインナップからお客様に最適な商品のご提案をさせて頂きます。
当社が取り扱う商品のラインナップに興味のある方は、ジェムス・エンヂニアリング株式会社の特殊鋼事業のページをご覧ください。